───これは、夏の砂に綴る、名もなき想いの記録。
───遠く海の向こうから届いた、小さな夏の招待状。
制服を脱ぎ、魔法の喧騒を離れて、
ひとときだけ素顔のまま過ごす、
三泊四日の臨海学校。
青く深い海を、クルーズ船でゆるやかに四時間。
潮風と陽光に包まれて、旅のはじまりは静かに動き出す。
辿り着くのは、学園が長年守り育ててきた無人島。
頻繁に人の手が入り、きちんと整備された施設と、
その隙間に息づく、豊かで静かな自然。
島の奥には豊かな森があり、
木々の間をすり抜ける風の音に混じって、
見たことのない生き物たちの声が、遠く近くに響く。
海は澄みきっていて、 陽を受けて揺れる水面の下では、
きらめくように泳ぐ魚や、
静かに漂う魔法生物の姿が目に映る。
──海辺の朝に目を覚まし、
白砂を駆け、
潮風に笑い、
夕暮れには火を灯し、
静かに言葉を交わす。
そのすべてが、心のどこかに残っていく。
──この島で過ごす、たった三泊四日。
けれどきっと、その短さが愛おしくて、記憶になる。
歩いた白砂も、誰かと笑った水辺も、
潮がさらっても、心の奥に残るだろう。
名簿にも記録にも残らない、けれど確かに生きた夏。
夢映の夏にだけ綴られる、静かな物語。
それを、人は──
渚想録(なぎさそうろく)
と呼ぶのかもしれない。